愛知県豊田市 |
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大蛇の地渡り むかし、むかし、下池と新池と呼ばれる二っの池を縄張りにして、 それは大きな蛇が住んでいたそうな。 そして、毎日のように二つの池から池へ渡っては獲物を捕り、ますます大きくなり、 人を見ると毒を吹きかけたという。 そしてその毒をかけられた人は、高熱にうなされ、体一面に斑点が浮かび、苦しみながら、 息を引き取ってゆくという。 ところがある日、源兵衛さんは孫と一緒にその池のある森へ、たき木拾いに出かけたそうな。 木洩れ日のさす森の中は、たいそう気持ちがよくて、孫と楽しく遊びながら 源兵衛さんはいつのまにか森の奥へ奥へと入って行ったそうな。 ふと気がつくと何か動いている。 ![]() そして、得体の知れないものが、地を這うようにこちらへ近づいてくる。 身ぷるいするような寒気と、耳をおおうような恐ろしい音も近づいてくる。 辺りのただならぬ気配に、源兵衛さんは身の危険を感じたそうな。 とっさに孫をしっかりと抱き、くぼ地へ身を寄せ、地面に伏せて小さくなっ ていたそうな。 するとどうじゃ、両抱えもあるような蛇が身をくねらせながら、目の前を通 りすぎて行った。 大きくって、長くって、太くって、赤黒くって、薄気味悪い音をたてて、それ は恐ろしい光景だった。 源兵衛さんと孫の二人は、恐怖のあまり、腰をぬかして立ち上がることもでき なかったそうな。 ![]() やっと村へたどり着き、家へ戻っても、恐ろしさは増すばかりで、しっかり と戸を締め、頭から蒲団をかぶって、ガタガタ震えていたそうな。 そして長い間、その大蛇を見たことは誰にも語らなかったという。 わいわいぎつねのいたずら ![]() ある秋の夜のことです。まわるい盆のような大きな月が、夜つゆでぬれたすす きのほを銀色にてらしていました。 庄屋さんの家から、ガヤガヤとにぎやかな話し声が聞こえてきます。 「今年は米がたんととれたのう。」 「村のしゅうにも、ねんぐをたんとおさめてもらってのう。」 「これで、秋まつりもにぎやかにやれそうだのう。」 「ほんに、全くそのとおりじゃ。」 地主さんたちが集まって、おまつりのそうだんをしていたのです。 拾ひゃくしょうさんたちのくろうも知らないで、お米がたくさんとれたからもっと出せ、 もっと出せと取り立てたのです。 ![]() 話がはずんで、お酒もだいぷん入り、かなり帰りがおそくなってしまいました。 そこで、みんなは近道をすることにしました。 地主さんたちは、みんな顔を赤らめて、気持ち、よさそうに話しながら、山の道を歩いていきます。 松の木と木の間から、お月さんが顔をのぞかせて、みんなのようすをながめています。 すぎの木立にはさまれたところまで来ると、甚兵衛さんが思い出したようにみんなに言いました。 「このごろ、また、あのいたずらずきのわいわいぎっねが、このあたりに出て来て、 みんなをだましているそうじゃないかね。」 「うちの次郎吉も、だまされてね。 そば畑を川と思ってきものを頭に乗せて、「深いぞ。深いぞ。」といって歩きわたったと聞いとるんじゃ。」 「そんなきつねがいるもんかね。村のしゅうの作り話さね。 だいいち、人間さまが、きっねになどだまされるもんかね。アッハッハッハ。」 吾兵衛ざんは、全く相手にしません。その笑い方が、あまりに自信ありげだったので、 みんなもその気になっています。 ただ、甚兵衛さんだけが、あたりを見回しながら、ニヤニヤとわらっています。 ひと山こえて、せの高い木々がなくなると、どういうわけか、道がなくなっていました。 そして、そこには、大きな池がありました。 ![]() ひっかえして、いっもの道を行こまいか。」 甚兵衛さんが言いました。すると吾兵衛さんがそれをさえぎるように言います。 「きっねが、人間さまをだませるものかね。たとえ、村のしゅうはだませても、 わしらはだませはしまい。この池は、ゆうべの雨でできただよ。きっと、ぞうじゃよ」 善右衛門さんも、大きくうなずいて言います。 「そんなことより、どうじゃな。今夜はいい月夜だし、お酒をのんで、からだ もぼかぼかしとるで、この池をわたってかえっちゃあ。ザブザブやっていった ら、さぞかし気持ちがええぞん。」 ![]() 「ええ気持ちだのう。ほれ、お月さんもうらやましそうに見とるぞな。」 「甚兵衛さん、何をしとるだ。おまえさんも、はようとびこまんかい。 気持ちがええぞん。」 みんなは、子どものように、はしゃいでいます。 いつのまにか、だれかが秋まつりのたいこや、はやしの口まねをし始め、 みんなもそれに合わせておどり出しました。 「ピーピー、ドンドン。ピーヒャララ。ここは深いぞ、ピーヒャララ。 足をとられてころぷなよ。ピーヒャララ、それ、ピーヒャララ。」 どういうわけか、甚兵衛さんだけは池に入らず、あきもせずにうかれておどっ ている地主さんたちを見ています。お月さんも、にこにこ、しながら、みんなの おどりを明るくてらしています。 ![]() ただあたりいちめんのすすきのほが、秋風にざわっいていたのでした。 そういえば、甚兵衛さんのすがたはどこにも見当たりません。しばらくすると、遠くのほうで、 「ワアーイ、ワアーイ、ワアーイ。」 と、わいわいぎっねの鳴き声が聞こえ、山おくのほうへ消えていきました。 頭にゆわえたわらじ ![]() こんな取り入れの喜びの時期なのに、村人たちはあっちに三人、こっちに五人と集まって、 心配そうにひそひそと、立ち話を続けています。 「また、いねかりの時になったのう。」 「こまったことじゃ。また千足山のてんぐが来て、わしらをいじめるんじゃ。」 「おれたちにいたずらをしては、喜んどるんじゃからのう。」 「まったくじゃ。ほんにこまったことじゃ。」 どの人もみんな、こまった顔をしていました。 ![]() ある夜のことです。吾助さは、夜なべしごとのなわないをするために、 うらのなやに行こうと、戸をあけて表に出ました。 吾助さは、空をあおいで、大きく深こきゅうをしました。夜空にはたくさん の星がきらきらとかがやき、流れ星の落ちる音まで聞こえるくらい静かで、きれいな夜でした。 吾助さは「ああ、きれいな夜だのう。星に手がとどきそうだ。」 と、美しい星のかがやきに見とれていました。 そして、なにげなく、遠くに黒ずんで見える千足山のほうを見やったのです。 そのとたん、全身はふるえ、血の気もうでてしまい、ひざはがくがくして、 思うように走ることもできません。 ![]() そして、おっかあにも、ものも言えずに、ただ、大きく口をあけて外を指すばかりでした。 おかってで夕ごはんのかたづけをしていたおっかあは、なにごとが起きたかとびっくりして、 急いで外へ出てみました。 千足山のてっぺんでは、夜空をこがさんばかりに、まっかな火の玉がもえています。 これは、遠くのほうから飛んできたてんぐが、 「おれは、またやってきたぞう。」 と、村人たちに、自分のみなぎる力をほこって知らせるあいずだったのです。 さあ、たいへん。吾助さとおっかあは、こわさをこらえて、急いで、村の人たちに、 今年もてんぐがやってきたことを知らせに回りました。 「てんぐが来たぞうい。」 「てんぐの火の玉が千足山に見えるだよう。」 「てんぐが千足山にいるぞうい。」 ![]() 村人たちは、家の中で身をかがめ、息 をひそめて、小さくなっていました。子どもたちは親のひざの中にもぐって、 ぎゅっとしがみっいて、はなそうとしません。 てんぐの通りすぎるのを、じっ と待っているほかに、手のくだしようがなかったのです。 と、あるばんのことです。急ぎの旅をしていた一人の男がいました。 この旅人が宮口まで来た時、はいていたわらじのひもが、プツッと切れてしまったのです。 旅人は、「もう少しでやどにつくのに。弱いわらじだったのう。」 と、ぷつぷつ言いながら道ばたの松の根もとにこしをおろして、新しいわらじ をこしからはずしていました。 その時、なまあたたかい風がふわっとふいたかと思うと、とつぜん、 「わっ、はっ、はっ。」「カタン、カタン。」 と、てんぐが旅人のほうへ、いきおいよく、大またでやってきました。 旅人は、心もきももっぷれんばかりに、びっくりぎょうてん。思わず、持っ ていたわらじを頭の上にのせて、 「どうか、どうか、命だけはお助けください。」 ![]() こんどは、てんぐが、 「きゃあっ。そのわらじをどっかへやってくれ。」 と、さけぷがはやいか、いちもくさんに千足山ににげ帰ったのです。 しばらくして、村人たちが、手に手にちょうちんをさげて、旅人のところへ集まってきました。 「おまえさん、だいじょうぷかね。」 ![]() すると、村人たちは、「てんぐめは、わらじがきらいだったのか。」 「おれたちも、頭にわらじをゆわえて歩くぞん。」 「そうじゃ。そうじゃ。いいことを聞いたぞん。」 と、安心したかのように、口々に明るい声で話し合っていました。 その後、村人たちは、のら仕事でおそくなったり、夜道を歩く時は、頭にわ らじをゆわえて歩きました。てんぐは、おどそうとして村へおりてきても、頭 のうえのわらじを見ては逃げ帰つてしまいました。 そして、いつのまにか千足山へ来ることもなくなった、ということです。 吉五郎さの酒 ![]() 千足の太郎兵衛さは、大島の親戚の家へ、稲のハザに使う杭木を貰いに出かけたそうな。 朝早く、大八車を引いて、たいそう急な坂の多い山道を、一人で出かけたそうな。 行く時は、大八車には何も積んでいないので、楽に大島に着いた。 親戚の家で、昼ごはんをごちそうになり、大八車にたくさんの杭木を積んで、帰ることになった。 途中の矢並まで、親戚の人に大八車を押してもらったもんで、助かったけんど、それから 先は一人で、引いてこなければならんかった。 たいそうしんどい思いをして、汗をかきかき矢作の橋まで来たとき、 ![]() けんども、 ![]() やっとの思いで、吉五郎さの店にたどり着いたときは、服を着たまま、風呂に入ったかと思うほど、汗びっしょりだったと。 「吉さ!一杯おくれ!早よ、早よ!」 と催促すると、吉五郎さは、大急ぎで、枡になみなみと注いで、太郎兵衛さに渡して。 太郎兵衛さは礼の言葉もそこそこに、一気に飲み干し、 「ああ、うまかった。五臓六腋にしみわたるとはこのことだなあ、まあ一杯!」 とお代りの枡を差し出したんじゃと。 吉五郎さも今度は落ち着いて枡に注ぎ、太郎兵衛さに渡したて。 太郎兵衛さも今度は落ち着いて、酒の味を楽しむかのようにチビリ、チビリ、 太郎さ「吉さ、こりゃ酒じゃねえ、酢だぜ」 吉さ「ほんな馬鹿な!さっきと同じ所から、もってきたぜ」 太郎さ「ほんなら飲んでみらっせ、こりゃどうみても酢だぜ」 吉さ「本当だわ、こりゃ酢だわ、悪かった、悪かった」 と言いながら、本物の酒をもってきて、 吉さ「太郎さや、さっきの一杯はまけとくでのう」 太郎さ「ほっかん、こりゃ今日は一杯儲かったわい」 太郎兵衛さは、上機嫌で帰って行ったそうな。 |
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