第4章 かんばん方式

第1節 かんばんについて

1−1 かんばんの誕生

当社の「かんばん方式」は、生産現場の知恵の結晶であり、独創的なもので、当社の誇りうる代表的なものの一つである。

かんばん方式は、スーパーマーケット方式とも呼ばれているが、これはスーパーマーケットからヒントを得て考案されたものである。
スーパーマーケット方式の運用の手段として、品番その他仕掛上の必要事項を表示した「かんばん」を道具として使用したことから、この生産管理方式を「かんばん方式」と呼ぶようになったのである。

この方式が正式に用いられるようになったのは昭和38年(1963年)8月頃で、それまでは本社工場の一部で改良を繰返してきたものが、次第に適用範囲が拡大され、広く全工場で実施されるようになったのである。

スーパーマーケットというのは、顧客によって必要とする品物を、必要なときに、必要な量だけ、入手しうるマーケットである。
顧客は不要な品となるようなものは購入しなくてもすみ、一方、マーケットは顧客がいつ何を買いにきてもよいように、品物をそろえておくという考え方からなりたっている。

スーパーマーケット方式は、日本在来の“富山の薬売り”・“御用聞き”・“ふり売り”などの商法よりも、売る側からみれば、いつ売れるか不明のものを持ち運ぶこともないし、買う側から見れば、ついつい余分な物を買ってしまう、というムダもなくなるという意味から見て、合理的であるといえよう。

この考え方を生産方式に応用したのが、当社のスーパーマーケット方式である。
マーケットを前工程、顧客を後工程としてとらえ、顧客である後工程は必要な部品を、必要なときに、必要な量だけ、マーケットである前工程へ取りにいき、前工程は後工程の需要のあった分だけ補充しておくと言うことになる。

ところで後工程へ供給する場合、考えねばならないことがある。
それは、後工程である顧客の立場からみれば、自分のほしいものが、できるかぎり良い品質で、安いことを要求する。
したがって、前工程である生産部門では、顧客の要望に答えられるように良い品質のものを、できるだけ安く造って供給しなければ、マーケットを失うことになる。

1−2 原価低減活動は居候絶滅活動

それでは、できるだけ安く造るには、どうしたらよいだろうか。
このことを検討するために、自動車という商品の価値が、どんな作業によって生みだされているか考えてみよう。

われわれの周囲の人たちの作業を観察すると、自動車を造るために必要な部品や材料を購入したり、その材料を加工したり、運搬したり、保管する人たち、各部品を完成車として組み立てる人たち、さらに車両を設計したり、生産計画を円滑に進める人たち、いろいろな分野で多くの人たちが、それぞれの仕事を分担して、自動車と言う商品を生産することによって、企業活動を営んでいる。

われわれは、自動車という商品を造りださねばならないわけだから、直接自動車のねうちをつくりだしているのは、やはり、自動車を製造する作業に直接従事している人たちということになろう。

それでは、直接作業に従事していない人たちは不必要なのだろうか。
材料や、部品を購入したり、車両を設計をしたりする人たちも、やはり、自動車を生産するためには必要である。
しかし、直接自動車を造っている人たちの作業とは、その内容に違いがある。
このような人たちの中には、人に食わせてもらっている人たち、あるいは、居候がいる可能性が強い。
また、このような人たちの作業は、居候的作業になる危険性が強いといえよう。

このように考えてみると、間接的にしか商品の値打ちに結びつかない、管理、間接部門こそ、意識的に居候を見つけだし、これを絶滅するように特に努力しなければならない。

つまり、原価低減という点から見た場合、自動車という商品を造りだすために、必要な費用以外の居候的費用は、すべてなくしてしまうことが大切である。

そこで、管理・間接部門の人たちが、全員「われわれは、もしかすると居候ではないだろうか」「真に価値ある売りものになる仕事をしよう」自問自答して、“居候ではない”と自信を持って言える仕事に心掛けることが大切である。

ここでわれわれが注意しなければならないことは、居候はけっして管理・間接部門だけに存在するものではない、直接商品の値打ちを造りだしている稼ぎ手の作業の中にもかならず居候作業が含まれているということである。
あるものについてはその作業のすべてが居候作業である、という場合もたくさんある。

さらに考えねばならないことは、居候は人間だけではないということである。

たとえば、大きな倉庫にいつも同じ部品や材料が、同じ量だけおかれているとすれば、その部品や材料、そして、それを収容している倉庫は、全然なくてもよい、ということが言える場合もある。
つまり、居候であると考えることができる。
また、立派な設備なのに、1日に半分も使用されずに眠っているものがあれば、このような設備も居候である。

いままで述べたような居候を、絶滅していくことが、われわれのねらいとする原価低減である。
しかも重要なことは、居候を全体としてなくすることにある。

たとえば、上述の設備の居候の話しでも、設備が半日眠っているからといって、設備の居候をなくそうと、機械設備をフル運転し、不要な部品をどんどん造りだしたのでは、そのために要した工数や動力費から、材料・部品・倉庫まで居候の洪水となって原価をあげる結果となる。

このように、一つの居候を絶滅しようとしたら、他の居候がどんどん出てきるのでは話しにならないのである。

われわれは、眼を大きく広く見開いて、今まで述べたような居候を、すべてなくしていくことが重要である。
この意味において「原価低減活動は居候絶滅活動である」ということができる。

1−3 居候絶滅運動の第一歩は目で見る管理

ここまで検討してきたことから、居候を絶滅することが、原価低減のもっとも効果的な方法であることがわかった。
そうすると、原価低減活動は、まず居候を見付けだすことから始まるということになる。
それでは、居候を見つけだすよい方法はないだろうか。
ところがムダ・ムラ・ムリ、つまり3ムダラリの形で存在しているこの居候という代物は、普通の場合、人間・倉庫・材料・設備の一部の中に隠れていて、簡単には見分けることは困難である。
したがって、そのままで居候を見つけ出そうとすれば、一部の専門家でないと、とても無理な話だということになりかねない。

しかし、原価低減活動を一部の専門家だけの仕事にしてしまったのでは、たいした効果が上がらないのはいうまでもない。
この活動は、従業員なら誰でもやるべきことであるから、居候はだれにでも簡単に見付けられるようにしておくことがどうしても必要になってくる。


それでは、このような状態にするためには、どうしたらよいのだろうか。
その第一ステップは標準作業をはっきり決めることである。
これがはっきり決まっていないということは、作業者にとって作業方法が違うということになり、居候を見付けることが非常に困難になるのは、だれにでも納得できることであろう。
居候の発見の第一歩は標準作業の決定から始まる。

次に第2ステップは、標準作業をかならず守ってもらうことである。
たとえ標準作業が決まっていても、これが作業者に守らなければ、決まっていないと同じことである。
標準作業は皆に守られて、初めて決まっているということがいえるのである。

ところが標準作業を決め、これを守らせるということは、なかなかむずかしいことである。
しかし、うえで述べたように、これが徹底的に実行されなくては、居候をだれでも簡単に見付けることは不可能といってもよい。

そこで、だれもが守りやすく、だれが見てもそれを守っているかどうかがわかりやすい標準作業を作ることである。
(詳しくは第3章標準作業を参照)


よい標準作業かどうかの判断基準の一つを、われわれはここに求めることが重要である。

このようによい標準作業をつくり、これを守らせることによって、はじめて人間・倉庫・部品・材料・設備などの中に隠れているムダ、ムラ、ムリを、われわれは容易に見つけることができるようになるのである。

たとえばAという部品はロット生産で、完成品の在庫が100個になった時200個ずつ仕掛けるというう場合、完成品を50個入りの専用の箱に入れておく。
そして、あと2箱になったら4箱一杯になるまで仕掛ける。
このように決めておけば、完成品を1個ずつ積み上げておくだけのやり方に比較して、はるかに標準作業は守りやすい。
また、守っているかどうかを、監督者が判断することがずっとやりやすい。
さらに一歩進めて、3箱目のところへかんばんをおいておくというルールを決めておけば、在庫を全然調べなくても仕掛時期がわかる。
したがって、標準作業は一層守りやすくなる。
そうすれば、次にこの100個の最少在庫が多いか、200個の仕掛が必要かどうか検討することができる。
仕掛け終った時点になっても、常に、在庫の2箱のうち1箱が残っているとすれば、この1箱分の在庫は居候部品と考えられるから、これをなくし、在庫を1箱に減らせばよいことになる。


以上の例でわかるように、よい標準作業を作りこれを徹底的に実施すれば、おのずと問題点は顕在化し、居候はあからさまになる。
そして、改善への手がかりを、容易につかむことができるようになるのである。

つまり、われわれが作業現場をうまく管理していくためには、目で見てわかるような管理体制、すなわち「目で見る管理」が一番大切である。

1−4 目で見る管理のための重要な道具「かんばん」

当社では、以前から現場を管理するための特徴ある方法として、目で見る管理というやり方が、他社に例をみないほど強力に進められてきた。
そして、目で見る管理のための重要な手段として、かんばんが登場してきたのである。
かんばんを評価するために大切なことは、かんばんが作業現場を管理するための道具であることを、十分認識することである。

かんばんは、けっして部品の在庫管理や生産、搬入指示のための道具してのみ、評価してはいけない。
かんばんを道具として使用することによって、現場の管理のサークルが、きわめてスムーズに回るようになる。
その結果、われわれがねらいとしている居候絶滅運動の効果があげられるということに、評価の焦点をあてなければならない。

現場の管理・監督者なら、管理のサークルをうまく回すことが大切だ、とだれもが十分認識している。
そこで、かんばんを効果的に運用することの、重要さも、われわれは同様に認識することがたいせつである。






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